- 池のあるホールのミスは手前に偏る。当てにいって振りが減速するから
- 判断はキャリー距離で決める。向こう岸までの距離に10ヤード足した数字を平均キャリーが上回らないなら刻む
- 攻めが刻みを上回るのは越え率7割から。ただし刻んだ先が得意な距離なら、この線は9割近くまで上がる
- 打つと決めたら池を見ない。素振りは池に背を向けて、狙いは向こう岸ではなくその奥
手前の土手に当たる球
150ヤードのパー3で、グリーンの手前が全部池。7番で届く距離なのに、打った球は池の手前の土手に当たって跳ね返る。方向は悪くない。距離だけが足りていない。
池が絡むホールで出るミスは、手前に集まります。左右の散らばりより、届かない球のほうがずっと目立つ。
越えようとした瞬間に、振り抜くことより当てることへ気持ちが移るからです。ダウンスイングの途中で無意識にスピードを落として、インパクトでヘッドが失速する。ゴルフでは緩むと呼ばれる動きです。自分では思い切り振ったつもりでいるので、始末が悪い。
心理学に、やるなと言われた動きほど出てしまうという実験があるそうです。1998年のWegnerらの研究では、参加者全員に「オーバーするな」と伝えたうえでパッティングをさせています。そのまま打った人の平均はショート側だったのに、同時に別の作業をやらせて頭をふさぐと、平均がオーバー側へ振れた。避けろと言われていたはずのミスが、頭に余裕がなくなった途端に出てきたわけです。
パットの実験なので、フルショットにそのまま当てはめるのは乱暴かもしれません。ただ、池を前にしたときに自分にかけている言葉を思い出してみてください。たぶん「入れるな」です。
越えるか刻むかの線引き
10回打って7回は越える。この見積もりを自分でやると、まず当たりません。会心の一発を自分の平均だと思い込んでいるので、7回のつもりが実際は5回、ということが起きます。
なので、感覚ではなく測った数字で決めます。要るのは2つ。向こう岸までの距離と、そのクラブの平均キャリーです。
向こう岸までの距離は、ピンまでの距離とは別物です。レーザー距離計を持っているなら、池の向こうの土手を測ってください。ピンまで150ヤードでも、越えるべきキャリーは125ヤードしかない池はよくあります。逆に池が斜めに食い込んでいて、自分の狙うラインだけ145ヤード要ることもある。目で見て決めると、ピンまでの数字と必要キャリーが混ざります。
平均キャリーの出し方は自分の正確な飛距離を知る方法に書きました。見るのはキャリー、球は真ん中の当たり。トータル飛距離とベストショットは、この判断では邪魔になります。
そのうえでの線引きはこうです。必要キャリーに10ヤード足した数字を、平均キャリーが上回っていたら打つ。足りなければ刻む。
10ヤードの余裕を取るのは、必要キャリーちょうどだと平均を下回った球が全部水に入るからです。薄く当たった球は1番手ぶん、だいたい10から15ヤード落ちます。つまり10ヤードでも下振れを吸収しきれていない。厳しすぎると感じるかもしれませんが、池はもともとその厳しさのために置かれています。
谷越えの数字
谷越えは、池と同じくらい怖いわりに数字がまるで違います。
打ち下ろしになることが多いので、必要なキャリーは見た目より短い。落差があるぶん球は先まで運ばれるので、実測すると拍子抜けします。高さが怖いだけで、距離ではたいして困っていない。
救済も違います。谷は入っても打てることがありますし、コースが赤杭でペナルティエリアに指定していれば1打罰で横にドロップできる。水がなくてもペナルティエリアになるのは2019年からの扱いです。ここで刻むのは、たいてい守りすぎだと思っています。
ただし杭が立っていない谷は別扱いです。指定がなければペナルティエリアの救済は使えません。3分探して見つからなければ紛失球で、打った場所からの打ち直しになります。これは池より高くつく。スタート前に谷へ杭があるかどうかだけ見ておくと、判断が速くなります。
刻んだときの期待スコア
数字で確かめます。以下は仮に置いた値なので、自分のスコアカードの数字に読み替えてください。
パー4のセカンド、残り160ヤードでグリーン手前が池だとします。
- 越えてグリーン周りまで行けたホールは、平均5.0で上がっている
- 池に入れたホールは平均6.5。ペナルティのコスト分析で見た池ポチャの実質コスト1.5から2打に収まる範囲です
- 100ヤード手前に刻んだホールは平均5.5
攻めたときの期待スコアは、越える確率をpとして 5.0p + 6.5(1-p)。これが5.5を下回るのは、pが0.67を超えたところからです。
だいたい7割。リスクと見返りの判断基準で挙げた成功率70%の目安と、ほぼ同じところに落ちます。
ただ、この7割はそれほど頑丈な数字ではありません。刻んだあとの平均が変わると、線はあっさり動きます。
刻んだ先が得意な100ヤードで、そこから平均5.2で上がれるなら、攻めが有利になるのはpが0.87を超えたときだけ。ほぼ確実に越える場面以外は刻んだほうがいい計算です。反対に、刻んだ結果として中途半端な50ヤードが残り、そこから平均5.8かかっているなら、線は0.47まで落ちます。それなら攻めていい。
つまり刻みの値打ちは、越えるかどうかより、どこに刻むかで決まっています。とりあえず打てるところまで転がすのと、残り100ヤードのフルショットが残る場所まで運ぶのとでは、同じ刻みでも中身が別物。ここを雑にやると「刻んだのにダボだった」が起きて、次のラウンドから刻まなくなります。私が一時期そうでした。
pを自分で入れる時点で、見積もりは甘くなります。だからキャリー距離の話に戻ってください。pの中身は必要キャリーと平均キャリーの差です。そこを測らないまま数字だけいじっても、答えは自分に都合よく動きます。
緩みを止める手順
判断が終わっていれば、緩みはかなり減ります。緩むのは、振り上げてからまだ迷っている球です。残りは手順で潰します。
素振りは池に背を向けて
池を視界に入れたまま素振りをすると、その素振りからもう振り切れていないことがあります。少し歩いて、池が見えない向きで2回振ってからアドレスに入る。
狙いは向こう岸の奥に置く
岸そのものを狙うと、球は岸の手前に落ちがちです。奥の木でも看板でも、岸より先にある目標をひとつ決めてください。
言葉から否定形を消す
「入れるな」をやめて「あの木の根元まで運ぶ」に言い換えます。やることだけを口にする。
番手は上げるほうに寄せる
1番手上げるか迷ったら、上げるほうを選びます。大事なのは上げたぶんを加減しないこと。いつも通り振ります。緩む前提の保険なので、手加減したら意味がなくなります。
池はほとんどグリーンの手前にあります。奥にOBやバンカーがないなら、大きすぎた球は許されて、手前に落ちた球だけが罰される。この偏りを、そのままクラブ選択に反映させてください。
まとめ
池が怖いのは正常です。怖さを消そうとするより、怖さが出る前に決着をつけたほうが早い。向こう岸までのキャリーを測って、平均キャリーが10ヤード上回っていなければ刻む。刻むなら、得意な距離が残る場所まで運ぶ。
打つと決めたら、あとは池を見ないで振るだけです。手前に落ちる球は、たいてい決めきれていないだけでした。技術のせいにするのは、その後で間に合います。
参考文献・データについて
この記事の期待スコアの計算に使った平均値は、説明のために仮に置いた数字です。実際の判断は自分のラウンドデータに置き換えてください。ペナルティエリアと紛失球の処置は2023年改訂のゴルフ規則(規則17、18.2)に基づいています。
- Wegner, Ansfield, Pilloff(1998)「The Putt and the Pendulum: Ironic Effects of the Mental Control of Action」Psychological Science 9(3) scholar.harvard.edu
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